とり。
四限終了後。芥川龍之介を求め友達と研究室を目指し昇るエレベーター。事務室でコピーするために降りるエレベーター。再び研究室を目指し廊下で待つエレベーター。私の足元へおちるとり。大正に刊行された分厚い本を片手にルーズリーフでとりを持ち上げようとする友達。青年を乗せ少女を置いて昇るエレベーター。タオルで捕獲され私の両手に収まるとり。
保健センターに向かった。五分前に受付を終了していた。白衣の女性が出てきた。タオルにとりを包んで立ち尽くす私を見た。汚らわしいとでも言わんばかりに拒絶された。建物を出て低い塀にとりを放した。弱っている様子はなかった。廊下に迷い込んで来たときのように羽ばたかなかった。捕獲しようとしたときのように暴れなかった。小刻みに震える以外は動こうとしなかった。私が携帯を向けると首だけ動かした。頑なにレンズに顔を向けることを拒んでいた。とりをその場に残して研究室へ向かった。研究室から帰り道までとりの話を一切しなかった。
とりよ。三階の変な塀の上のとりよ。どうかそこからおちないでおくれ。親子丼。おでんの玉子。鶏肉の野菜炒め。一口食べるたびにとりのその後が気になった。