年の瀬じゃないの。
ようやく平日の真っ昼間にパジャマでニュースを眺める日常に戻れた。
平日にも関わらず早起きして、ろくにテレビも観ず満員電車に乗り込むなんて正気の沙汰ではない。
しかし少なくとも6日間は、ようやく戻った人間生活を続けても文句を言われないで済むらしい。
おかしな世の中だ。でも私はまともだ。
とにかく、例年通り実家に寄生して、ギリギリまで籠るか。
というわけにもいかない。
私にはこれから品川発の新幹線で大阪へ行き、夜行バスの中で孤独に年を越しながら神奈川へ帰省する、
という正気の沙汰ではない行程が待っている。
なぜこんな目に?
12月1日。火曜日。
月初の繁忙期に無理を言って午後休を申請して、
歩道を駆けて大阪行きの夜行バスを見送った日を境に、
正気の沙汰ではないほど感傷的になってしまったことに起因する。
五年の交際を経て、私たちは遠距離になった。
カタツムリよりも保守的な私に対し、ゲルマン民族よりもじっとしていられない彼は、
ひとえに夢を叶えるため、日本海付近で毎日蟹を頬張る仕事に就いた。
行った日は寂しかった。
次の日から毎晩二時間でも電話をしていた。
(行く前は電話がかかってくると面倒で居留守していた)
会えなくなってから有り難みを実感し、私は日に日にロマンチストかつポエマー、
齢25にして恋する乙女になっていた。
惚れた弱み。恋とは恐ろしいものだ。
どうやら30、31日と続けて蟹を頬張る仕事は休みらしい。
これを逃したら次はずっと先だから。
かくいふ理由で、私は帰省ラッシュに紛れて故郷でも何でもない大阪へ向かうことになったのだった。
冷めたピザ、砂漠の干物より死んだ感情が色付いてしまうほど。
正気の沙汰ではない。前言撤回。私も十分、まともではない。