私がまだ幼稚園児くらいだった頃にテレビでムーミンのアニメがやっていた。朧気ながらいつも見ていた記憶があって、「なんで基本全裸なのに泳ぐ時だけ水着なのかなぁ」なんて考えていたのも覚えている。子供向けの童話で、今でも姉はミイが好きだし友達はスナフキンが好きだし、グッズもたくさん売れてて誰もが知ってる人気の名作だけど、私はちょっとトラウマなんだよね。グリム童話とかマザーグースとかに似た怖さがあるような気がする。といっても、ほとんど覚えてないから、今見るとそんな事ないのかもしれないけど。
ムーミンのアニメで一番強烈に覚えてるのは、黒くて大きいおばけみたいなキャラクターが出てくる話。ストーリーそのものは思い出せないけど、当時テーブルの下に潜ってビクビクしながら見ていたことは今でも忘れられない。そのおばけが本当に怖くて怖くて、記憶の中にしか残ってないから年を重ねるごとそのビジュアルが曖昧になってくるのにも関わらず、もう何年もトラウマで。美しく楽しげな北欧の風景満載のアニメが、そのおばけの時だけ暗くておどろおどろしい雰囲気になってた。それが異様に怖く感じたのは、ただ私が幼かったからだけなのかもしれないけど。
あれから十年以上が経って、私も十八になり、ふとあのおばけは一体何だったんだろうと気になった。今ではネットでなんでも調べられる時代。今ではってか、だいぶ前からそういう時代か。昨日コンビニにあったムーミンのDVDを見て、思い出して、私に得体の知れない恐怖を与え続けていたあのおばけの正体を知りたくなった。早速ムーミンの公式サイトを開き、キャラクター紹介の二ページ目で、十数年ぶりに対面する。これだ。これだよ。間違いない。モラン、だ。今見ても少し怖い感じがする。なんだろうなぁ、気持ち悪いとか目も当てられないとかそういうのじゃなくて、なんか不安になる。ていうか、ここにいるキャラクターみんな、独特の雰囲気があるね。ただひたすら可愛くて陽気でハッピーな仲間達、ではないよね。ムーミンに対するささやかなトラウマは、当時の幼い感受性のせいだけじゃなかったことを確信した。まぁ今だって幼いけどさ。
モラン。Wikipediaによると、「触れるものを凍りつかせる化け物。女性。常に温まりたいと思っているのだが、そのさびしい、冷たすぎる心のために、周囲を凍らせてしまう」。孤独で、優しく寛容なムーミンママでさえモランを避けるという。ムーミンだけがモランを理解している。十八年間、理由もなくモランを排除していた私より、ムーミンのほうが百倍大人だった。今日からモランと友達になりたい。ネットで調べていくうちに、一輪の赤い花を持ったモランの画像を見つけた。正直、可愛いと思ったよ。