「多摩センター」に違和感をおぼえる。
まずセンターって何なんだ。多摩の中心ってことなのか。中央多摩とかでいいじゃないの。センターってつくと、日本文化センターとか、施設的なものを思い浮かべるけど駅前に多摩センターなんて施設はない。確めたわけじゃないから、地下とかにこっそりあるのかもしれない。駅名になってる時点でこっそりじゃない気もするけど。
これが新宿センターだとか横浜センターなら、カタカナが都会的でおしゃれだと思えるのに、多摩って何なんだ。たまご、たまねぎ、うちのタマ。都会のとの字もない。鼻水アナリスト、くらいのミスマッチ。小田急多摩線。多摩線。たません、たー、で多摩センター。間が抜けてるにもほどがある。
朝の小田急線に乗車中、先の駅で人身事故が起こった。運転見合せで三十分足止めをくらった。振替輸送を行っているとのアナウンスを耳にしたので、動き出した下り列車に乗り換え、町田から横浜線、橋本から京王線を使って行くことにした。一応どちらも乗ったことはある。だけど初めての振替輸送。振替輸送って何?振替乗車券を握りしめて、それっぽいおじさんの後ろを尾行し、まねっこ。「振替輸送」をやると切符を買わずに乗れるようだ。あぁ、そういうことか。少し賢くなった。
小田急ではずっと人と密着していたのに、横浜線も京王線もラッシュなど何処吹く風。朝とは思えない空き具合に内心ビクビクしながら座った。窓から見えるのは見覚えのない景色。なんだか今乗ってる電車が、毎日通ってる学校に辿り着く気がしなかった。私、どこに輸送されてるんだろう。乗客も学生やサラリーマンより主婦やおじさんが多い。途中でおじいちゃんおばあちゃんの小さい団体が乗り込んできて、「いい天気ですなぁ」なんて話してるから、なんかもう熱海にでも着くんじゃないかって雰囲気だった。京王多摩センターの手前でその団体は降りた。よく見るとみんな手に出張パソコン教室のクリアファイルを持ってた。意外とハイカラ。熱海とか言ってごめんなさい。
妙に長い乗車時間がさらに不安を煽る。もうすぐ十時。一限終わるまでに間に合うだろうか。振替乗車券を駅員に渡して改札を出る。十秒歩くと、左手に小田急の改札が見え、目の前には見慣れた景色。あぁ、もう大丈夫。戻ってきた。ほっとする。でもくやしい。「多摩センター」ごときに、安心してしまった自分がくやしい。