回転寿司バイト最後の日。辞めたいと伝えたのは二週間前。へぇじゃあシフト減らすからと言われ、はぁそうですかと引き下がって、母とT君に「しっかり伝えなさい!」と背中を押され、自分の情けなさを思い知った。私ひとりではバイトひとつ辞めることさえできないんだなぁ。もう一度店長に相談して、いま忙しいからと突き返されたけど、その日の夜には納得してくれた。
人一倍迷惑かけたと思う。とくに店長には。悲劇のヒロインではないけれど、なんだか私は他の人に比べていろいろと扱いが雑だった気がする。休憩入れ忘れ、直前の無断シフト変更。高校生と主婦の人を遅くまで残せないのはわかるけど、ホールの最終片付けはキツい。土日は毎回私だった。大学生だから仕方ない…とはいえ、時給880円を稼ぐために親に出してもらってる学費を無駄にするのはおかしい。バイト後に課題で徹夜した時は死ぬかと思った。
辞めると決まってから風邪を引いてしまって、いらっしゃいませが言えないくらいの咳と、閉店間際に鼻血で早退の最悪コンボ。二日連続で鼻血を出した。なんだろうね。迷惑のデパートのような存在だった。
それでもみんな随分と優しくしてくれたなぁ。ほんと居心地よかった。辞めたくてしようがなかった時でも、制服を着ると気持ちが引き締まった。学校との両立さえできれば、ずっと続けていたかった。高校時代の郵便配達といい、内気で貧弱なくせになぜか活気と体力勝負のバイトを選んでしまうんだけど、結局最後はやってよかったなと思う。二十歳の夏を回転寿司屋の娘として過ごせてよかった。
しばらくバイトはしない。二ヶ月分の給料でも贅沢に生きていけるのが実家暮らしの強み。親愛なる魚介類に囲まれて過ごした生臭い夏は、剥がれかけた鱗のように、きらきらと光っていて、内臓のように苦く、どの時期よりも脂がのっていた。