我が家の節分といえば例年、殻つきピーナッツをおざなりに撒き散らす程度のイペントですが、今年は母が恵方巻きを買ってきてくれました。お昼のテレビ番組から得た情報によると、「南南東を向いて」「願い事を思い浮かべながら」「無言で」食べるのが作法のようです。
食卓におもむろに並べられた直径五センチ、全長十センチの海苔巻き。「いただきます」と同時に南南東を向き、一斉に恵方巻きを頬張ります。
もぐもぐ……
(何このシュールな状況!噴き出しそう!ていうか恵方巻きでかっ)
もぐもぐ……
(これ具は何だ?卵ときゅうりと茶色いのと……明太子?)
もぐもぐ……
(あ、ちらし寿司の赤くて甘いやつか。あれ何ていうんだっけ?)
もぐもぐ……
(ヤベッ!願い事するの忘れてた!えーと、えーと……)
もぐもぐ……
(お父さん食べ終わった!早っ!あぁ、いいな、私も早くコロッケ食べたい……)
もぐもぐ……
(なくならない気がしてきた)
もぐもぐ……
(あ、願い事!えーと、えーと、いや、待て、食べてる間ずっと唱えてなくてもいいのか?そもそもどういう仕組みで願いが神様に届くんだろう?こんな間抜け面見せられて、日本の神様も大変だよなぁ……ごくろうさんです)
もぐもぐ……
(お腹いっぱいになってきた……あ、お母さんも終わったっぽい!ていうかテレビ観たい……)
もぐもぐ……
(食事と一緒に出すことが間違ってるよね。食後のロールケーキとかにすればいいのに。私が生きてる間に改善してほしい伝統だわ)
もぐもぐ……
(こんなに苦労して食べるんだから最後にサプライズみたいなのがあってもいいのになぁ。恵方巻きの末端におみくじ的要素をプラスすることで、一度で二度美味しい日本文化を味わえるとか。もしくはアタリが出たらもう一本!とかね)
もぐ
「あ、食べ終わった」
その後、個包装された大豆を仁王立ちする母の腹部に投げつけ、ビニールを破って歳の数だけ食べました。今年は比較的公式ルールに近い節分だったのに、なぜだろう。例年より切ないきぶんになりました。