食パンをくわえて家を飛び出すのは女子高生の特権だと思う。いい歳した大人は、時間に余裕をもち、朝はドトールかエクセルシオールあたりで一服してから出勤するのが当たり前で、駅までダッシュなんてみっともない。
16 時。私はバイト先の塾の前にある横断歩道で、信号が変わるのを待っていた。ふと右に目をやると、小柄な女の子が走っていた。秋物ブーツの踵を鳴らし、紅葉色のチェック柄ストールと、真っ直ぐな黒髪をなびかせて。そしてそんな今時の女子大生らしい格好に不似合いの、拳を握り締めドタバタ走り(わりとガチ)。顔を見るまでもなく、知り合いだとわかった。
彼女は小学生以来の友達で、中学では同じ部活・習い事・塾に所属し、毎日のように顔を合わせていた。そして高校で喧嘩別れし、去年仲直りした。家が近いから試合の遠征前なんかによく待ち合わせたんだけど、部長のくせに、いつもいつも遅刻。で、走ってやって来る。あの時の走り方と全く同じで、二十歳過ぎて駅までダッシュするあたり、変わってないからすぐわかったよ。思わずメールしてしまった。「今走ってた?」
23時。私はバイト先の塾の前にあるデパートの横を歩いていた。「電車は間に合った。スーツ似合うね」という主旨のメールが返ってきていて(顔合わせてないのに一応わかったんだなぁ)、それに対する返信メールを打ちながら。ふと前を見ると、正面から小柄な女の子が歩いてくる。…またか!念のため「Lちゃん?」と声をかけると、「おー!」と返したのはやっぱり夕方に見た子と同じだった。
一日で二回も遭遇するなんて滅多にないぞ。嬉しかった。と同時に、まだその遅刻癖が直らないのかと呆れた。まぁ私もこれを書いてる今、駅までダッシュしたけど乗り遅れて一本後の電車の中なんだけどさ。